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小説『燕は戻ってこない』 | 性別も立場も超えて3人に共感できてしまう謎

4/30にスタートするNHKのドラマ『燕は戻ってこない』を見る前に読んでおきたいなと思って読みました。

 

北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事につくも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。心身ともに疲弊する生活の中で、「いい副収入になる」と同僚に卵子提供を勧められ、ためらいながらクリニックに赴くと、代理母になることを持ち掛けられた。代理母を依頼したのは、自分の遺伝子を受け継いだ子が欲しいと望む著名な元バレエダンサー•基とその妻•悠子。リキは迷い、恐れながらも、生きるために、未知の“ビジネス”へと踏み出していく。

 

 

桐野夏生って、もうなんなんでしょうね。

 

 

この人どんな人生送ってどんな経験してきてんの?といつも思ってしまうほどのリアリティ。

 

 

桐野夏生さん、

お金なくて代理出産考えたことあります?

どうしても自分のDNAを残したい男だったことあります?

夫が他の女と子供作ろうとしたことあります?

 


そんなわけないけど、そうとしか思えないほどリアルな登場人物たちの心の揺らぎと行動の数々。

桐野夏生さんの本って厚い(長い)ものが多いですけど、読み出すといつもするっと読めてしまうから不思議です。

 

 

 

共感できると言っても、自分だったらこういう行動するな、という行動を登場人物たちが取るわけじゃないんですよね。

特に主人公については、そうそう、さすがにそれはしないよね、ということを突発的にやってしまったり、おいおい、まさかそんなことすんじゃねーだろーな、止めたくなるようなことを決断してしまったり、その行動はこちらが想定するものから大きく外れています。

にも関わらず、その予想外の行動さえ、何故か共感してしまうほどのリアリティがそこにあるのです。

 

 

私はリキほどお金に困ったことはないんですけど、リキのパートを読んでいる時は、この先について考えるだけで暗澹たる気持ちになり、

基のパートを読んでいる時は、基の「優秀なバレエダンサーである自分の遺伝子をどうしても残したい」という暴走にも似た逸る気持ちが湧き起こり、

悠子のパートを読んでいる時は、全てを投げ出したくなる疎外感を覚えました。

 

 

『燕は戻ってこない』は「代理母」がテーマになっていますが、そもそも出産•妊娠って、ほんとに大変なんですよ。
私は妊娠初期からつわりがひどくて、人生でこんなに辛いことがあるのかと心の底から思いました。
安定期を過ぎても全く治らなかった吐き気はもちろん、頭痛、腕の痺れ、立ち上がれないくらいの腰痛、挙句に痔……!
もうありとあらゆる症状が出て、普通の生活が送れず、妊娠する前の元気だった頃の自分も思い出せず、出産するまでの期間を考えるとあまりの長さに絶望しました。

 

会社に「無給でいいから休みたい」「週に1回でもいいから在宅勤務させてほしい」(電車の揺れで毎日死にかけました)と訴えたんですけど、なんかスルーされまして、最終的に病院から妊娠悪阻の診断書が出てようやく会社を休めることになりました。
あんな状態で会社行っても迷惑しかかけられないのに、何で休ませてくれなかったんだと今だに謎です。

 

毎日つわりで死にそうな中、ある日の朝礼で男性社員が「昨日、娘が生まれました!」みたいに発表して、「これからますます頑張ります!」的な宣言したんですね。
終わりの見えないつわりの中で完全に鬱っぽくなっていた私は「いいよな、男はああやって『生まれました!』で終わって。こっちは何ヶ月も気持ち悪くて、妊娠前みたいに働けなくて周りにも迷惑かけて、死ぬ気で産んで、生まれたら今度は産休、育休に入って……『生まれました!』で昨日も今日も変わらず仕事できる男はいいよな」と拍手をしながら思いました。

 

 

本を読んでいると基に対しても「お前は楽でいいよな」という気持ちが沸々と湧き上がりました。
基も言ってましたけど、もちろん精子を提供するのだって気持ち的には色々あると思いますよ?
でも、それがなんだよ、というのがキリや悠子の気持ちだと思います。

それがなんだよ!こっちはもっと大変なんだよ!

 

 

悠子は流産を繰り返して不育症。
体外受精を試したものの、やはり流産。卵子が老化したため受精も不可能。

さらっと書いてありましたけど、悠子、辛かっただろうなと思います。妊娠して喜んだのも束の間、一瞬にして突き落とされるショック。それを何度も繰り返したなんて、想像するだけで神経やられそうです。
その上、人工授精をした時は、卵管造影やカーテルを子宮に入れられ、「肉体的な痛みだけでなく、もっと根源的な痛み」までも味わっているのです。

 

 

基が「男は出すだけって思ってるんだろうけど、男だって、自分の能力を測られるようで恥ずかしいんだ」とか悠子に言ってたんですけど、

 

出すだけじゃねーか!!!!
自分も同じくらい辛いみたいにガタガタ言うな!!!!!!!!!!

 

と基の頬を全力で引っ叩いてやりたくなりまし
た。

 

 

ただ。
私は「生まれました!」と元気に朝会で報告した会社の男性社員が羨ましかったし、自分の遺伝子を継ぐ子供ほしさに他の女性に代理母を依頼する基を引っ叩きたくなりましたけど、
同じように、どんなにつわりが辛かろうがなんだろうが妊娠、出産した人が羨ましく、子供ができて幸せなくせにガタガタ文句言うなと言いたい人もいると思います。
つわりだか何だか知らないけど仕事休むなよ、と思う人もいるかもしれない。

 

難しい。

 

女が子供を産むことができるというのは、本当になんて尊くて、なんて厄介なもの背負わせてくれたもんだと思います。

 

全ての機能も痛みも辛さも、みんな同じだったら本当にいいのにね。

 

 


小説のラストについて語りたいところですが、まだドラマもスタートしてないのでやめておきます。
またドラマを見たら、ドラマの感想と併せて語りたいと思います。

 


ちなみに、『燕は戻ってこない』ってタイトル、どういう意味なのかな、と考えませんでした?

桐野夏生さんはタイトルについて以下のようにコメントされていました。

 

戻ってくると思っていた燕が戻ってこない、というのは不穏で不吉かもしれませんが、逆に言えば何ものにもとらわれず、自由になることなのかもしれない。タイトルは、両義的、多義的なものが好ましいと思うので、これに決めました。

 

かっこいいーーーーー!!!!
「タイトルは、両義的、多義的なものが好ましいと思うので、これに決めました」ってむちゃくちゃかっこよくないですか?私もそういうこと言える語彙がほしい。
いろんな意味を含む、なんて素敵なタイトル。
ドラマも楽しみです!!!

 

なんか、長い番宣みたいになってしまった……。

 


とりあえず、おしまい!

 

 

そして、基が稲垣吾郎って似合い過ぎ。
NHK、すごいぞ。