とっつぁんnote

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『不適切にもほどがある!』が描く震災 | ドラマのジャンルは「クドカン」。

市郎(阿部サダヲ)の娘•純子(河合優実)と付き添いの令和人•サカエ(吉田羊)が担任(矢作兼)から進路指導を受けるシーンからスタートした『不適切にもほどがある!』の第5話。

矢作「おまえの偏差値で入れる大学なんか、この世にないって」
純子「や~だ。川島なお美と同じとこ入りたいの~」
矢作「青学!?幼稚園だって無理だよお前の頭じゃ、バカか!」

初っ端から飛ばすね!
そりゃあお断りテロップも出すよね。このお断りテロップ出すタイミングがいいんですよね。
コンプライアンス監修が思わず「ストップーーーーー!!!!!!!」と放送中止を言い渡そうとしたであろう瞬間に流れるお断り。


純子「大学行かなきゃミスキャンパスにもなれねーし、『オールナイトフジ』にも出れねーし、裏口でいいからフェリス入りた〜い」
矢作「小川、お前の顔なら学がなくても最悪、嫁には行けるって」


………や、やはぎ……?
今、何言った……?


心の中でクドカンが背中を摩ってくれます。
どうどうどうどう、落ち着いてください。ね?ほら、お断りテロップ流しましたから。ね?
落ち着いて落ち着いて。
ひーひーふー。
大丈夫です。吉田羊さんが現代人の気持ちをちゃんと代弁してくれますからね。
「ひーひーふー。あ、そうですよね。吉田羊さんがいれば大丈夫ですよね」


吉田羊「それ本気で言ってます?」
矢作「もちろんブスだったら『死ぬ気で勉強して国立目指せ』って言いますけどね」


ぬおぉぉい、矢作!!!それはあまりに言い過ぎじゃないか?!貶しすぎだろ!……いや、美人だって褒めてんのか?
私は逆に「お前は死ぬ気で勉強して国立目指すべきだったのに!」と怒られている気持ちに。切ない……。


吉田羊「私、国立ですけど!っていうかひどい! 教育者として、女性蔑視、学歴差別ルッキズム!あと……何だ?」


あと何だ?!何だかわからないけど、なんかもっといっぱいある気がする!!!!
昭和ってこんなとんでもない先生いたんですか?
めちゃくちゃ怖いじゃないですか!!!!!!!

ということで、めちゃくちゃ笑ったオープニングだったんですけどね。
なんとエンディングでは泣いてました。

……え?何この感情の起伏。
私の中でフットボールアワー後藤が「高低差ありすぎて耳キーンなるわ!」と言ってます。
振り幅ありすぎて、自分で自分がもうわからない。自分がコメディを見ているのか、シリアスなドラマを見ているのか、それすらわからない。


だって、だってだってだって、市郎と純子、もう亡くなってたんですよ……。


第5話では、純子がディスコで出会った黒服・犬島ゆずる(錦戸亮)と恋に落ち、子供ができて結婚したこと過去が明らかに。
当初は結婚に反対していた市郎ですが、純子に引きずられる形で兵庫で仕立て屋を営む娘夫婦の元を訪れ、市郎とゆずるが“和解”。純子の子供を膝に抱えて純子と3人で写真を撮ったり、純子とゆずると3人で朝まで飲み明かしたり、幸せなひとときが描かれます。
そして1995年1月17日午前5時46分。
市郎と純子は阪神淡路大震災に巻き込まれ、命を落とすのです。
そして歌う現在のゆずる、古田新太


すいません、ちょっと待ってください……。
これ、ミュージカル挟むとこですか?
ここでミュージカル挟むんですか?
錦戸亮古田新太になるんですか?
と思いつつ、号泣してしまう私。


ちなみに、震災の悲惨な画はありませんでした。
ゆずるが話す2人の最後は、まだ暗い中、駅に向かう市郎と、市郎を送るため一緒に出かけた純子の姿。これからもっともっと幸せな瞬間がたくさんあったはずだった2人の楽しそうな背中でした。

……クドカン。いや、宮藤官九郎。いや、宮藤官九郎先生。一周回ってやはりクドカン
クドカン、やっぱりすごいですよね。
こんな圧倒的な笑いの中に、残酷な現実をするっと入れてくるんですよ。


『不適切にもほどがある!』はタイムスリップコメディの中に令和の風刺をミュージカルで入れるドラマだね、
大笑いしながらちょっと現在のコンプラ重視の世の中について考えられるドラマだね、
なんて思って見ていた私たちに、風化させてはいけない過去を冷静に見せてくる。過去じゃないと言ってくる。
お断りテロップばっかりの、めちゃくちゃな市郎と純子を私たちが大好きになったところで、理不尽な現実を突きつける。大好きな人が、突然失われる可能性があるのだと強烈に思い出させてくる。

クドカンというとコメディの印象が強いですけど、よく考えるといつも死について書いてるんですよね。
笑いの中で強烈に死を意識させつつ、それでもドラマ全体としては笑いのイメージがあるのがすごいと思いす。
間違いなくコメディなんですけど、コメディという枠にはめるのもなんか違う気がするというか、もうすでに「クドカン」というオリジナルのジャンルを作ってる感じがします。

自分と娘の死を知った市郎のセリフがよかったです。これまで破茶滅茶な物言いばかりだった市郎の人間味みたいなものがくっきり出て、胸が詰まりました。

市郎「そうか。でもよかった。ちゃんと打ち解けて、仲直りして。酒飲んだり、孫抱っこしたり。そういうの一通りあるんだこれから。楽しみだ!」

別の場所で渚(仲里依紗)から真実を聞いた聞いた秋津(磯村勇斗)は「(市郎は)知ってたんじゃないかな」と言ってましたけど、例え「もしかしたらそうかもしれない」「きっとそうだろう」と思っていたとしても、自分と自分の娘の死を正面から伝えられたら、人間なかなか市郎のようにできないと思います。
普通はどうにか自分と自分の娘の死から逃れようとジタバタ始めますよ。だって市郎はタイムスリップでまた過去に戻れるんですから。戻って、自分たちだけ逃れることも可能かもしれないんです。
でも市郎はとりあえず自分たちの死を受け止めた。ここがすごい。

「そういうの一通りあるんだこれから。楽しみだ!」なんて、ちょっと笑顔で、こんな優しいことを言える男だったんだと改めて市郎という人に衝撃を受けました。

その後、昔もらうはずだったスーツをゆずるから受け取った市郎。スーツを着た市郎が店の外で渚たちに会い、「よう!どうだい!」とスーツを得意げに見せ、タバコを一本吸うところが、めちゃくちゃかっこよかったです。
昨年久しぶりに配信で見た『踊る大捜査線』で青島が傷だらけになりながらもくわえタバコで犯人連れてきた時も「かっこいいーーーーーーーー!!!!!」ってなりましたけど、それとはまた別のかっこよさ。

昭和で所構わず吸いまくってた時にはもちろん何も思わなかったんですけどね。とんでもねぇ副流煙の時代だなと思っただけだったんですけどね。
過去(市郎にとっては未来)の自分が着るはずだったスーツを着て、9年後に自分と娘が死ぬことを知った上で、笑顔でタバコを吸うところはかっこよかった。


なんてかっこいい。
なんてかっこいい男だよ、市郎。
チョメチョメチョメチョメチョメチョメチョメチョメうるさいなと思ってたのに惚れちゃうよ!


未来を知った市郎はどうするのか、後半戦も楽しみ。


とりあえずおしまい!